甲状腺とは、喉ぼとけの真下にある、蝶が羽を広げたかのような形をしている臓器です。この甲状腺では、血液中に含まれるヨウ素を取り込み、これを原料とした甲状腺ホルモンが作られ、同ホルモンは甲状腺から血液中へ分泌されるようになります。なお甲状腺ホルモンには、新陳代謝(エネルギー代謝)の促進、体温の上昇、心臓の働き(心拍数)の促進、脂質の代謝(体内の脂肪の分解と合成)に関与、神経に作用し精神的な機能を維持、胎児や小児の成長や発達を促進するなどの働きをします。
甲状腺ホルモンが体内で過剰になったり、量が少なくなったりすることがあります。すると次第に身体に様々な症状が起きるようになります。このような状態になると、何らかの甲状腺疾患に罹患している可能性が高いです。当院では、甲状腺疾患の診療も行っているので、気になることがあれば、いつでもお気軽にご受診ください。
甲状腺疾患の種類としては、甲状腺ホルモンが過剰(甲状腺機能亢進症:バセドウ病 等)または不足(甲状腺機能低下症:橋本病 等)になる甲状腺機能の異常や甲状腺に腫瘍ができる場合などがあります。
以下の症状等に心当たりがあれば、一度ご受診ください。
このような症状はご相談ください
- 【甲状腺ホルモンが過剰な状態にある場合にみられる主な症状】
- 甲状腺が腫れる
- 眼球突出
- 動悸、息切れ
- 頻脈(脈が速くなる)
- 多汗、発汗(汗をかきやすい)
- 疲れやすい
- 手指が震えている
- 暑がりになる 等
- 【甲状腺ホルモンが低下している際によくみられる症状】
- 体重増加(体重が増える)
- 顔や手足の浮腫(むくみがある)
- 皮膚の乾燥
- 脱毛
- 便秘
- 徐脈(脈がゆっくりになる)
- 寒がりになる
- 無気力、疲れやすくなる
- 嗜眠(すぐに眠たくなる)
- 鬱っぽくなる
- 動作が緩慢になる
- 記憶力が低下する 等
主な甲状腺の病気
バセドウ病
甲状腺ホルモンが過剰になってしまう甲状腺機能亢進症のひとつで、主な疾患として挙げられることが多い病気でもあります。甲状腺を刺激してしまう抗体が作られてしまうこと(免疫異常)で、過剰に甲状腺ホルモンが分泌されてしまいます。免疫異常が起きてしまう原因は遺伝的要因もあるのではないかともいわれますが、現時点では特定できていません。女性の患者数が多いのが特徴で、男女比は男性1に対して、女性は4~5の割合になっており、日本では約10万人程度いると推定されています。
よくみられる症状としては、甲状腺が全体的に腫れていきます(びまん性甲状腺腫)。また頻脈や動悸、眼球突出が挙げられます。上記以外にも、異常に汗をかく、食欲は増し、よく食べるのに痩せてしまう、疲れやすい、手が震える、下痢などの症状がみられます。
治療について
過剰に分泌されている甲状腺ホルモンを抑制し、正常化させるためには、まず薬物療法が行われます。この場合、抗甲状腺薬として、メルカゾール(チアマゾール)やプロパジール(プロピルチオウラシル)などの内服薬が使用されます。同薬による治療は、発症初期(2~3ヵ月程度)は副作用がでやすいので、2週間に1度の割合で通院と血液検査をする必要があります。
他の治療方法としては、放射性ヨウ素治療(アイソトープ)、甲状腺の一部または全部を摘出する手術療法が行われることもあります。
橋本病(慢性甲状腺炎)
免疫異常などによって甲状腺にリンパ球が浸潤することで炎症が起きてしまうのが、橋本病です。この炎症が起きると、甲状腺ホルモンの分泌が低下し、様々な症状が出てしまうことがあります。橋本病は慢性甲状腺炎とも呼ばれます。30~50代の女性に多くみとめられ、男女比は約1:20です。
人によっては、甲状腺に炎症が起きても体の代償機能(カバーするしくみ、補うしくみ)によって甲状腺ホルモンの低下が起こらず、やや甲状腺が腫れる程度で問題を起こさないということもあります。ただし当初は症状が無くても病気が進行して、甲状腺ホルモンが低下する場合があります。このような状態になれば代謝が悪化してしまい、身体にむくみがみられる、体重が増える、寒がりになる、便秘になる等の症状もみられ、声帯のむくみによる嗄声(声がかれる)や抑うつ気分などが起きることもあります。
治療について
甲状腺ホルモンが明らかに低下している場合には、薬物療法として体内で不足している甲状腺ホルモンを内服します。
橋本病と診断された場合でも甲状腺機能が低下していなければ、ホルモン補充療法の必要はありません。ただし、今後甲状腺機能が低下するリスクがあるので、経過観察のために通院することもあります。
また、妊娠を希望されているもしくは妊娠している場合には、ご本人に症状がなかったとしても、ホルモン補充療法が必要となるケースもあります。
甲状腺腫瘍
甲状腺に発症する腫瘍を総称した呼び名が甲状腺腫瘍です。この場合、良性と悪性の両方ともが含まれます。
なお良性腫瘍には、甲状腺嚢胞、単純性甲状腺腫、腺腫様甲状腺腫、プランマー病等が含まれます。また悪性腫瘍には、甲状腺がん(乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん 等)、悪性リンパ腫等があります。
甲状腺腫瘍は、小さいのであれば自覚症状も現れにくいです。このような状態で発見されるのは、別の目的で行った画像検査でたまたま腫瘤が見つかり、甲状腺腫瘍と診断されたケースが大半です。腫瘍が大きくなった(概ね縦10mm×横10mm×厚10mm程度以上)場合には良性なのか悪性なのかを診断つける必要があります(それ以下だと、小さすぎて検査が難しいことが多いです)。そのための検査として、超音波検査(甲状腺エコー)を中心に、視診や触診をはじめ、血液検査(CEAとカルシトニン等の腫瘍マーカーやサイログロブリンなどを調べる)を行います。さらに詳細な検査が必要であれば、穿刺細胞吸引診という細胞診検査(がんが疑われる部分に針を刺し、細胞を採取し、顕微鏡で調べる)などをしていきます。
治療について
良性腫瘍であれば、経過観察となるケースが大半です。ただ腫瘍が大きい、これによって気管偏移などが起こり、呼吸困難や嚥下障害等の原因になっているという場合は、腫瘍を摘出する手術が検討されます。また悪性腫瘍であれば、手術療法が基本となります。がんの拡大状況によって、切除の範囲が決まります。具体的には、がんのある部分の甲状腺を切除することもあれば、甲状腺を全て摘出することもあります。また手術後は、甲状腺ホルモンの内服、副甲状腺機能低下症に対するカルシウムやビタミンDの補充、化学療法、放射性ヨード内用療法など、必要とされる追加治療も行われます。